偶然の旅人…41歳のピアノ調律師
ハナレイ・ベイ…息子を海で失った女
どこであれそれが見つかりそうな場所で…失踪人を探索するボランティア
日々移動する腎臓のかたちをした石
…「一生で出会う三人の女」のうちの一人と出会った男
品川猿 …自分の名前だけが思い出せない女
東京で静かに暮らす人々が体験する五つの奇妙な物語
短い時間でスラスラと読んでしまいました。
図書館の順番待ちが少なくて
思いがけず早く手元に届いたのでビックリ。
私の住んでいる地域では
村上春樹の人気はあまりないのかなと思ってしまいましたが、
そうではなくて、借りている時間が短いから
回転するのが早いのかもしれないですね。
村上春樹の小説を読んだことがない人が、
どんな感じかなと興味を持っていたら、
この本を読んでみるといいと思います。
とても読みやすいです。
あとは好みの問題。
ムラカミハルキ的な人々が次々と登場します。
偶然の一致というのは、ひょっとして実はとてもありふれた現象なんじゃないだろうかって。つまりそういう類のものごとは僕らのまわりで、しょっちゅう日常的に起こっているんです。でもその大半は僕らの目にとまることなく、そのまま見過ごされてしまいます。まるで真っ昼間に打ち上げられた花火のように、かすかに音はするんだけど、空を見上げても何も見えません。しかしもし僕らの方に強く求める気持ちがあれば、それはたぶん僕らの視界の中に、ひとつのメッセージとして浮かび上がってくるんです。その図形や意味合いが鮮やかに読みとれるようになる。そして僕らはそういうものを目にして、『ああ、こんなことも起こるんだ。不思議だなあ』と驚いたりします。本当はぜんぜん不思議なことでもないにもかかわらず。そういう気がしてならないんです。…偶然の旅人
私も同じ事を考えていました。
いままでの人生の様々な場面で。でも言葉にできなかった。
それを村上春樹の文章で読むことができるなんて
・・・思いがけず出会ったカタチのある感情。
「ハナレイ・ベイ」淡々と進む物語。
そして、ある一点で主人公の感情が爆発する。
「どこであれそれが見つかりそうな場所で」
…捜しものは「たぶんドアみたいなものだと思うけど」
このお話のムラカミハルキ的な場所は、
マンションの階段、踊り場。
結局のところ自分は、つまらないものをたくさん手にしながら、人生のもっとも大事なものを逃しつづける人間なのかもしれない。…日々移動する腎臓のかたちをした石
「男が一生に出会う中で、本当に意味を持つ女は三人しかいない。
それより多くもないし、少なくもない」
16歳のときに父親からこんなことを言われたら
困惑するに決まっています。縛られてしまう。
そんな彼がある女性に出会い、
彼女が二人目の意味のある女性だったと気がつくまでの話。
この女性が魅力的です。
「風と彼女とのあいだには、誰も入ることはできないのだ」
「品川猿」…書き下ろし。
不思議なカウンセラーが出てきます。
名前と、「名前に付帯しているネガティブな要素」を
取り戻すまでのお話。
彼女は取り戻さなければならなかった。
そして向かい合わなければならない。
市役所の土木課長とその部下のやりとりがヘン。
作者はからかっておもしろがっていますね。
村上春樹の短編を読んだのは久しぶり。
私は、この本、大好きです。
「Where I'm Likely To Find It 」
雑誌The New Yorkerの May,2,2005年号に掲載

地味だけど、味わい深い作品集だと思いました。
結構、お気に入りです。
読んだあとも、このまましばらくは村上ワールドに浸っていたいという
気持ちになるような、愛すべき作品集ですよね。
好きだなあ、この本。
私も「偶然の旅人」のその場面で同じような気持ちになりました。
上手く表現できませんが、心のどこかでもやもやしていた何かがすっきりした感じです。
miyucoさんがおっしゃられる通り、これから村上春樹の世界に触れる方には
ちょうど良い入門書かもしれませんね。
(いきなり「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」では濃厚すぎますし(笑))
とても読みやすい本ですので、どうぞ読んでみてください。自分の読んだ本を人におすすめするなんて初めてですが、この本はいいですよ。
>みわぽんさん
こういう、「感情を掬い上げるような文章」を読むことができるのが本読みの快楽ですよね。この場面が心に残っている方が何人かいらっしゃってすごくうれしい♪現実社会でこんなふうな感想を共有できる人に会うことは難しいですから。
・・・たしかに「世界の終わり…」をいきなりは濃いですね。
nice! ありがとうございました。